森川洋匡さんの制御性T細胞におけるFoxP3とエピゲノムの役割についての論文が PNASに掲載

森川洋匡さんの制御性T細胞におけるFoxP3とエピゲノムの役割についての論文が PNASに掲載されました。

 
Differential roles of epigenetic changes and Foxp3 expression in regulatory T cell-specific transcriptional regulation.
Morikawa H, Ohkura N, Vandenbon A, Itoh M, Nagao-Sato S, Kawaji H, Lassmann T, Carninci P, Hayashizaki Y, Forrest AR, Standley DM, Date H, Sakaguchi S; FANTOM Consortium.


Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Apr 8;111(14):5289-94.

要約:

 制御性T細胞(Treg)は、異常・過剰な免疫反応の抑制機能に特化したT細胞群であり、免疫自己寛容、免疫恒常性の維持に不可欠である。Tregは転写因子Foxp3を特異的に発現し、Foxp3の遺伝子変異は、ヒトのIPEX症候群に見られるように、重篤な自己免疫疾患、炎症性腸炎、アレルギーを惹起する。またFoxp3遺伝子を通常T細胞(Tconv)に強制発現させると抑制活性を誘導できる。これら知見に基づき、Foxp3はTregの発生・機能を司るマスター遺伝子とされてきた。しかし、最近の研究により、Treg分化にはFoxp3発現以外に、Treg特有のエピゲノムの成立が必要であることが明らかになりつつある。本論文では、Tregにおける詳細な遺伝子発現解析、Foxp3等の転写因子の結合部位、およびエピゲノムデータを用い、TregにおけるFoxp3依存的、非依存的遺伝子発現制御について検討した。
 TregおよびTconvのT細胞抗原レセプター(TCR)刺激前後のRNA発現データを、Cap analysis of gene expression (CAGE)法により取得した。Tregでは48,374個、Tconvでは45,705個の転写開始点(TSS)を検出し、そのうち約半数は未知のTSSであった。Tconvに比してTregで有意に発現レベルが高い遺伝子群では、Treg機能発現を司るIl2ra, Ctla4, Tnfrsf18やFolr4等が上位を占めた。興味深いことに、TCR刺激に対する反応はTregとTconvで大きく異なり、TregではTCR刺激後の発現抑制が多くの遺伝子で認められた。
 次にゲノム全体におけるTregとTconvのDNAメチル化状態をメチル化DNA免疫沈降法により解析した。Tregで特異的に脱メチル化している領域 (TSDR)はわずか301カ所で、半数以上は遺伝子内部に集中して認められた。TSDRと遺伝子発現との関係を解析すると、TSDRの上流にあるTSSはTconvに比しTregで有意に発現が高く、Treg特異的発現を示す遺伝子群が含まれていた。この結果は、TSDRがこれらの遺伝子のenhancerとして働いている可能性を示唆する。さらに、TSDRをもつ遺伝子群は、Foxp3-null Treg (Foxp3を発現しないTreg様細胞)でもTreg同様に発現が亢進していた。即ち、TSDRを持つ遺伝子群の発現上昇は、Foxp3非依存的であると考えられた。
 次にFoxp3の結合領域 (Foxp3 BS)について検討したところ、Foxp3 BSは、Treg、Tconvに共通に発現する遺伝子の遺伝子内部およびプロモーター領域に認められた。興味深いことに、Foxp3 BSはTreg-Tconv間でクロマチン状態に差の認められない領域に集中しており、TSDRとの共通領域は1カ所のみであった。この結果は、Foxp3依存的転写調節が、TSDRとは独立した機能を持つ可能性を意味する。またFoxp3 BSに関連した遺伝子は、TCR刺激後に転写が抑制される傾向がみられた。即ち、Treg特異的なDNA脱メチル化領域は、TCR刺激に関係なくTregで優位に発現している遺伝子群と相関が見られる一方、Foxp3 BSは、刺激依存性にTregで抑制されている遺伝子と相関が見られ、両者にはほとんど重複が認められなかった。
 以上の結果より、Tregの遺伝子発現はFoxp3依存的な転写制御と、エピゲノムに関連したFoxp3非依存的な制御で構成されることが明らかとなった。

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